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Story - 1st:On a fine day of summer [20]

第1章 ある晴れた夏の日に [20]

「そうだ。自分の意志のままに人形を操り、それを糧として術を放ったりもできる、特殊な職業のことだ。おそらく、あの少年が人形だろう」
 カナに説明するように、リョウが言葉を紡ぐ。室内は静寂に包まれ、先ほどの勢いは女にも、少年にも見られない。
 さらに、少年は微動だにせず立っていた。まばたきもしなかったのは、彼が人形だからだと言うのだろうか。今のその姿からは笑顔さえも消え、うつろな目でどこかを見ている気がした。
「そして、人形使いには人形を操るための『媒介(ばいかい)』を必要とする。普段から身につけるような物……おそらく、『これ』が媒介だろう」
 言って、握った紐にますます力を込めた。これによって少年の動きを封じているのだろう。リョウの勝ち誇った顔と、女の悔しそうな顔が至近距離に並ぶ。いわゆる形勢逆転という図だろう。
「……ビンゴだな。カナ、見てみろ。あの人形動いてないだろう?」
 カナは視線を少年に向けた。先ほどと同じ姿勢で同じ状態で立っている青い姿。何も変わったところなんかあるわけがない。
 が、どことなく違和感を感じた。
「……右に、動いてる?」
「何だって。そんな事があるはずがない」
 驚きは微塵も感じさせなかった。どうせカナの見間違いだろう、とリョウは踏んでいた。
「で、でも、確かに、動いてるのよ!あっ」
 カナの声に反応したのか、いや、そんなはずはないだろうが、絶妙のタイミングで少年は目をひらいた。『かっ』という効果音がまさに相応しかろうその動作に、今度はリョウが驚いて思わず手の力をゆるめてしまう。
 そのスキに、体をひょいとくねらせて、女がリョウの呪縛から解放された。再び初めと同じ位置に陣取りながら、呆然とする二人を見てくすくすと笑みをこぼす。

 

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