カナはカナで呆然とその光景を脳内でリプレイしていた。
だが、剣を手にして振り向いてからの記憶しかないため何がなんだか理解しきれないでいる。
リョウの体に物体が飛んできたということと、女がそれに全く触れずに行われたということだけが脳裏に蘇る。
「あ、貴女……超能力者?」
「アタシは何もやってないさ」
カナの声は明らかに震えていた。それが面白かったのか、女が舌舐めずりする。
野生の狐を思わせるその仕種に、カナはますます背中をゾクリとさせた。
「やったのは、こいつ。指示したのが、このアタシ」
言いながら、女は少年の頭をぽんぽん、とたたいてやった。
その行動が少年にとっては嬉しいのかもしれない。喜んだように顔をゆるめる。
わけも分からず座ったまま動かないカナの存在を、脅威でもなんでもないと見なしたのだろう。
女は、カナから隣の少年に視線を移した。
ただし、その注意はリョウに注がれている。視線以外のあらゆる集中力が、動かない人形のような男に向けられている。
三度、カナは体をこわばらせた。
「本当に、こいつが強大な魔術力の持ち主なのか?」
「うちどころが悪かったので無反応なのでしょう。もしくは、衝撃で気を失っているだけです。食べた後ですし、腸が動きについていってない、ということも考えられますね。速度は控えめにしたので魔術力に影響は無いはずです。多少減少したかもしれませんが、大人しくさせる事には成功していますし、上手く行き過ぎていますよ。当初の計画以上と言ったところでしょうか」
「そうか」
満足したようだ。女の茶色いブーツが床を滑る。リョウの方へ近付いてきた。歩みは速い。
そして、彼と同じ高さになるようにしゃがみこんだ。リョウの両耳についている赤いピアスのうちの片方に手をかける。
女の黒い瞳が閉じる。何かに集中しているようだ。だが、その集中はわずかにしか持たなかった。
目を開く。
「くっ!」
それまで漏らすことのなかった、女のうめく声が辺りに響く。
彼女の首に下げられた円盤状のペンダントの紐を、リョウが掴んだのだ。顔を歪ませ、驚きを隠せない女に、リョウが呟く。声ははっきりしていたが、脳に衝撃が残っているのか、リョウの視界はまだぼやけたままだった。
「人形使い、だな」
「人形使い?」
リョウの言葉に疑問を抱いたのはカナだった。