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Story - 1st:On a fine day of summer [18]

第1章 ある晴れた夏の日に [18]

 煙が視界から消え去る。
 観葉植物がカナの視界の隅に映り、真ん中には、身長の異なる二人のシルエットが映った。
 向かって右側に、先ほどの少年がいた。ただし、服装は随分と違っており、水色のローブを羽織っていた。黄色のバイアステープの縁取りを持つそのローブのインナーとして、薄緑色の光沢ある布地が覗いていた。ズボンも少し大きめで、色だけ見ると西洋風なのに、バランスがどこか中華風を思い浮かばせる。
「なんだ、バレてたのかい」
 その少年の隣……カナより少し身長が高いかも知れない、女が居た。 腰に手をあてて立っている。これまた飲食店には相応しくない、茶色の麻の長いマントに、臍が見える短い丈の青地のタンクトップを着ている。タンクトップと同色同素材のミニスカートはスリットによって動きやすそうなのが見て取れ、さらに同じ素材でオーバーニーなんて履いている。
「あんな大声で喋ってたら聞こえるに決まっているだろ」
 しゃがんでいたリョウが立ち上がりながら言った。リョウという支えを失ったカナが後ろにこてん、と転がる。転がった為に顔が先ほどの後ろ、すなわち壁の方面に向いた。視界に見慣れたコバルトブルーが映る。自分の剣だ。今さらながらにその存在に気付いた。
「へえ、地獄耳ってとこかい。じゃあ、『アタシが一体何をやりたいか』をあんたは知っているって言うんだね?」
「そんな悪趣味な事は俺の耳に入れてないな」
 リョウの言葉にふうん、と女は宙をあおいだ。腰にあてていた右手を『すっ』と、その視線の先に持って行き、立てた人さし指を降りおろす。指された方向には、リョウの姿。
 わけもわからず、リョウはしばらく動かなかった。が、次の瞬間体に衝撃が走った。
「がっ」
 小さな観葉植物の植木鉢が、リョウの腹部をめがけて飛んできた。鉢植えの角が、男の体をすごい勢いで突く。円柱型だったのが幸いしたため、致命傷にはいたらなかったようだが、初速も加速度もそれなりだったので、衝撃だけでも胃液が戻りそうになる。
 実際、その衝撃を受けたリョウの体は後ろに飛んだ。剣に手をかけようとしていたカナの横をすり抜けて、そのまま壁に衝突する。『ガタン』という音と共に、窓の側に置かれていたベルやら何やらが落ちてくる。 まるで壊れた人形のようにリョウの体は叩きつけられたため、思わずカナはびくりと身構えた。 リョウは、力を失ったのか、ぐたりとして座り込んだまま動く気配を見せない。
「なんだい、もう終わりかい?」
 構えていた手をおろして、女が吐き捨てた。

 

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