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Story - 1st:On a fine day of summer [16]

第1章 ある晴れた夏の日に [16]

「実は俺の方もあんたに尋ねたいことがあったんだ」
 出し抜けにそんなことを言う彼に、カナはきょとん、とした表情でフォークを口に加えた。 彼女としては、自分の発言がまるでトマト男に一目惚れでもしたような風に伝わってしまったのではないかと焦ったのだが、杞憂だったらしい。若干腑に落ちないというか面白くは無かったが、彼の方から予想外のリアクションを受けたので機嫌を直す。
「昨日の今日で?新手のナンパ?」
「……断じて違うから、そんな風に持っていくな、頼む、ほんとに」
「そこまで否定しなくてもいいじゃない。なんかむかつくー」
 青年が左腕をテーブルにつき、項垂れた状態で、更に右手を前に持ってきて否定した。いくら冗談のつもりでカナが言ったにしても、これじゃあ何となくいい気はしない。再び不機嫌をあらわにして、彼女はライスを口に運んだ。
「それでだ、あんたの右手についてるそ……」
 気を取り直した青年が(まあそれでも少しばかり疲れた口調だったが)言う。しかしその言葉も途中でとめられた。
「何?どしたの?」
「話は後だ。……厄介だな。やはり、さっきのは……」
「?」
 青年の意味不明な発言にただただ首をかしげるばかりのカナ。そこへ先ほどの店員の少年が皿を抱えてやってきた。
「あれ、あたし何も頼んでないよ?貴方は?」
 見たところカナ達以外に客は相変わらずいない。植物のせいでなかなか周囲が見づらかったが、声が聞こえないのでその見解に間違いはないはずだ。
 だが、それでも少年はカナ達のテーブルの前にやってきた。カナの疑問に青年は答えない。 その釣り上がったエメラルドの瞳が少年をきつく睨んでいる。
「ねえ、あたしも何も注文してないんだけど」
 仕方なしに今度は少年にむかって尋ねた。が、彼も彼でにっこり笑っているだけで、カナの方に反応しようともしない。まばたきひとつせず、だ。
「ねえ、ちょっと……」
 無視されるのが気に食わない、しかも何も動きがない。たった少しの間だったのだけれど、カナとしては苛立ちを増幅させるには充分だった。
 だから、椅子から立ち上がって机をたたくことで気をひこうとした。カナの手と、机の間が狭まる、その瞬間。
 どどどどどどどどどっ
 机の響く音ではなく、火があらわれるような音がした。

 

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