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Story - 1st:On a fine day of summer [15]

第1章 ある晴れた夏の日に [15]

「お待たせしました」
 差し出されるスパゲティの皿。目を輝かせてカナがフォークを手にする。向かいの青年は、そのあまりの量におどろき、手で口を抑えていた。
「そちらのお客さまはデザート、お持ちしますか?」
「あ、ああ。頼む」
 よろけそうになりながらも青年は答え、それを聞いて小さく会釈した少年が去ってゆく。
「……それも食うのか」
 青年が目で指す方向にはスパゲティとオレンジジュースと野菜サラダ。そして小盛りライスが添えられていた。
「だってー、スパゲティ食べるにしたってお米は必須よっ。人間お米が一番。一日一回食べなきゃ気がすまないわ」
 青年は少しの吐き気を覚えながらカナから目をそらすことに決めた。ふうっ、っと息を吐き、左手でほおづえをつく。それでも臭ってくるホワイトソースにうんざりしながら、氷の溶けてしまっている水に手をやる。水滴がまとわりつくが、それすらも気持ちよく感じた。
 と。彼の先、すなわち観葉植物のもっとむこう側に先ほどの少年と、女性とおぼしき誰かが会話しているのが視界に入った。
『なんだ……?』
 姿勢はそのままで、眉間に皺を寄せる。じっと観察し、様子をうかがっていたのだが……
「ねえねえ、貴方、旅人?四季国の人じゃないでしょう?」
 そんな思考はカナに遮られた。それまで頭に引っかかっていた何かが自然に消えてしまう。 そして、ふと自分が何故この女と食事をしているのか、という今さらながらの事に気付いて尋ねてみた。
「ところで何故、お前は俺と食事をしてるんだ……?」
「あー、あたしの質問無視したねー?じゃあ答えてやんない」
 口を窄ませながら、それでも手だけはとめずにカナが反論する。男はうんざりしたように頭を掻きむしって、答えた。
「あぁ……、旅人だよ。ここの出身でもない。はい、答えた」
「色気のない返答ね」
「返答に色気があってどうする」
「それもそっか。で、あたしがなんで貴方と食事してるかって?そんなの、一人でごはん食べるのがいやだったからに決まってるじゃない。知り合いいたら声かけるでしょー」
 あまりにあっけらかんとしていた様子に青年は目眩を覚えた。何度目だろう、くらりと倒れそうになる体を精神力だけで必死で支える。
「あんたの返事も色気がないようだが」
「やーねー。てゆーのは冗談で。いや、本気なんだけど。そうね……貴方に興味があったから、かな?」
 声の調子を全く変えず、カナが笑って言った。場を理解出来ず、今度は固まるしかない青年。それを見て、顔を紅潮させながらフォークをぶんぶんさせ、慌ててカナがフォローに入る。
「ち、ちがうちがう!そーゆー意味じゃないからね!そうじゃなくて」
「ああ、なんとなくわかるから、いい」
 そういえば、自分もよくわかんないが気になっていたんだ、と言うことを思い出して呟いた。

 

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