EACH COURAGE

Story - 1st:On a fine day of summer [13]

第1章 ある晴れた夏の日に [13]

「覚えててくれたんだ」
 カナは言いながら青年の向かいに座った。その行動に青年は一瞬怪訝そうな顔をしたが、敢えて何も言わなかった。
 全くその顔に気付かず、カナは貰ったメニューを開き、鼻歌なんかを歌い始める。
「すいませーん」
 ひととおり目を通しただけで決まったのか、彼女はテーブルから身を乗り出して手を振った。右手につけられた装飾品がカツカツ、と音をたてる。
 杖と剣はカナの背中、すなわち壁の方に立て掛けるようにして置かれていた。トマト男が取ろうとするには、カナを飛び越えない限りまず無理な位置である。よく見ると観葉植物もあったりするので横から入るのもまず難しい。
「えと、このお勧めランチってのひとつと、あ、飲み物はオレンジジュースね。デザートにドルチェつけて下さい〜」
「パスタは何に致しましょう?」
「うーんと……じゃあピンクサーモンのホワイトスパゲティで」
 注文中のカナの声を聞いて、男はあからさまに嫌な顔をした。店員の少年が去ったあとに、カナが口を尖らせる。
「なに?なんか文句あるの?」
「いや、そんなホワイトクリームなんて腹にたまるもの、よく朝飯に食えるな」
「ちがうわよー」
 運ばれてきた水を手にして机に肘をつきながらカナは返した。行儀が良いとは言えない姿勢だけれど、言及はしないでおこう。水を持っていない方の手で、この間のように人さし指をぴんと立てる。そして指先を軽く左右に振った。
「ちっちっち。もう十時じゃない。こんな時間に朝ごはんなんて食べないわよ」
「わるかったな」
 どうやらトマト男は朝食をとっていたらしい。ホットコーヒーと、サンドイッチにサラダ。よくあるモーニングセットの類いを机に並べていた。
「じゃあ昼か?それにしては早くないか」
「ブッブー。お、や、つ。お昼ごはんは十二時過ぎてから〜」
 ふっていた指を止め、ぴんと立てて笑顔で言ったカナに対し、青年は飲んでいたコーヒーを少し吹いてしまったらしい。そこらに茶色い液体がとんだ。
「何やってんのよ、汚いなあ」
「ま、まて、『おやつ』だと。おやつといったな。間食なんだな。まさかお前の家庭では昼に食べるごはんを『おやつ』というんじゃないよな」
「……………………なんかいけないこと言った?」
 わめき、まだむせている青年の問に、カナは『何故?』と首をかしげるばかりだった。

 

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