EACH COURAGE

Story - 1st:On a fine day of summer [12]

第1章 ある晴れた夏の日に [12]

 腹が減っては戦は出来ぬ。この言葉はまさにカナの為にあると言っても良かろう。墓地を出たカナが初めに向かったのは、町外れにある一件の食堂だった。なんでも先日突然オープンしたばかりらしく、しかもカナと同い年くらいの娘とその弟らしい少年の二人で切り盛りしていると言う。 その割に料理の出来が良いらしいため、立地に疑問はあれどそこそこの入客を維持しているとの噂であった。
 自他ともに認める大食い娘もとい食通のカナだったので、四季国を出る前には行っておきたかったのである。
 カララン
 西洋風の茶色い扉を開ける。ドアにつけられていた鐘がなった。
「いらっしゃいませー」
 それとほぼ同時に、奥から少年と思われる声が聞こえてきた。
「お一人様ですか?」
 カナが室内に体を滑り込ませる前に、声の主は既に入り口まで来ていたようである。 肩より少し短めのブルーの髪には、お洒落にも前髪に赤い色のメッシュが入っている。 さらさらとしたその髪型に、自分の癖っ毛を恨めしく思いつつカナは少年を眺めた。
 身長はカナより低い。おそらく少年は一三〇センチ位だろう。小柄で細身、遠目からは女と間違えても仕方ないくらいだし、その幼い顔も中性的だった。
「はい、ひとりです」
「ではこちらへどうぞ。お煙草は……未成年ですね」
 煙草とは、やはりミスター・ミウラが発明した物のひとつである。 植物の葉を乾燥・発酵させたもので、火をつけると発生する煙を肺に吸うことが出来る。その嗜好品は成人した者が嗜むことができるため、少年は言いかけただけでやめたのだろう。カナは非常に童顔だった。
 少年は右手にメニューと思われる紙を持ってカナを奥まで案内した。案内、と言っても昼よりかなり前のこの時間では客はいなかったので好きな席に座れると言ってもよいだろう。 はてさて良い席は無いものかと、カナは窓の方を中心に店内をきょろきょろ見渡している。
 と、カナの目がある箇所で止まった。客が座っていたのだ。 どこかで見たような服装。クリーム色の服に紫色の布のようなものが巻き付かれた上半身。首に何かかけているのだろうか、黒い紐。そして茶髪。
 少年店員の不思議そうな顔も無視して、あろうことか案内も無視してカナはその背中を指差し、叫ぶ。
「あー!こないだのトマト男っ!」
「誰がトマト男だっ!」
 そう、それは先日の『トマトベっちょり男』であった。場がイマイチ理解出来ない店員の少年は『ではこちらの方の席についてお待ち下さい』とカナに言い残し、そそくさと奥に入って行った。
「あれ、あんた……」
 トマト男(仮名)は体を反転させた。どうやら先程はカナであることに気付いていなかったようである。 しかし、一応カナの事は覚えていたらしい。 まぁ、昨日の今日である上にあんな大道芸をしたのである。早々忘れもしないだろうから覚えていて当たり前かもしれない。

 

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