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Story - 1st:On a fine day of summer [10]

第1章 ある晴れた夏の日に [10]

「……それ」
 青年もカナを観察したのだろう。彼はカナの右手首に視線を投げた。 金属より軽い素材で出来た、青色と白色の腕輪がカナの手首にはめられていた。直径十センチか、そこらの物だろう。とめ具は無い。輪になった厚さ二ミリほどのそれに青年の目は釘付けになり、吸い寄せられる。
「これ?お守りみたいなものでね。あたしのお母さんがくれたの。素敵でしょ?」
 何の変哲のないただのそれを素敵かどうかは形容し難かったが、カナからしたらずっと身近にあったものである。彼がそれを見る理由は謎であるが、カナが青年のペンダントに惹かれるのと同じかもしれないと思えばそれまでであるから、言及はしないでおいた。
 と、いつのまにか青年はカナから視線をそらしていたようだった。
「?」
 それどころか、気付くと青年の姿は消えていた。まっすぐ先の方に小さくなって走っていく姿が見える。その容貌は四季国の中ではかなり目立っていた。つまり先の青年だろう。
「……変なやつー」
 カナが言うのもどうかと思うが、仕方なしにそのまま彼女も反対方向に歩き始めた。腕輪が二つ重なり、カツ、と音を立てた。

 青年は走りながら考えていた。
『あんな何処にでもいそうな間抜けな女が、なんだってあの腕輪を持ってるんだ?』
 前を見ていないはずなのに、誰にも接触することなくまっすぐ進むことが出来ている。茶色のブーツが人工の大地を蹴る。
「ワープの杖を持ってた。『聖』の香りがした……」
 そこで少し減速して、再び駆ける。
『何者だ、あの女?』
 立ち止まって、思い出したように振り向くが、先ほどの場所はもう見えるところにはなかった。

 はあ、と息をつく。それが全力疾走の疲れがもたらしたのか、はたまた彼女と自ら別れてしまったことを悔いる気持ちからなのか。それは彼自身しかわからない。ただただ立ち止まって虚空を見ていた。

 

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