01. A dreary morning

 ちょうど今日みたいな天気のいい日だった。
「お前の髪、俺より短いんだな」
 彼にとっては他愛の無い言葉だったと思う。ただ、その言葉がどれだけ彼女に重くのしかかったか。きっと、彼はまだ知らない。


 最悪の目覚めだ、と彼女は思った。ワンテンポ遅れて、部屋中にけたたましい鐘の音が響く。この世界で最高峰の技術者とされるミスター・ミウラの作品で、指定した位置に太陽がくると鐘を鳴らすことのできる機械である。朦朧とする意識のまま、ゆっくりとその機械に手をかけた。比較的大きめのスイッチをカチリ、と鳴るまではめ込む。なんとも良くできたモノで、目立つところにあるくぼみを押すだけでは完全に鐘は停止せず、一定の間隔で鳴り響くという性能を持っている。そのため非常に寝起きの悪い彼女は、その機械を目覚ましのための道具として愛用していたのだが、今日はそれよりも早く目が覚めてしまった。
「はぁ……」
 二度寝をする気分には残念ながらなれなかった。今日の役目を終えた機械から手を離し、顔を覆う。
 今日もベッドメイクは完璧だった。この国の気温にふさわしいパステルカラーのシーツと清潔な布団は、使用人が取り替える。彼女自身はプライベートルームに上がり込んで勝手にそのようなことをされるのは非常に不快だったが、それはここでは当然のことであったので、仕方がないと思うことにした。
『まぁ、わたしの家ではないしね』
 あと少しの辛抱なのであるから。
 そう胸中で呟いて、身体をゆっくりと起こした。首を左右に動かして、なんとか頭を働かせようと努力する。そのままずるり、とベッドから降りた。部屋は八畳ほどの個室であり、ユニットバスやドレッサー、コンパクトデスクなどが設置されている。ベッドの左手側にはスーツケースのようなモノがどさりと置かれており、彼女はそこから衣類を見繕う。
 といっても着るのはいわゆる制服なので、さほど苦労はせず身支度を終えた。ドレッサーに軽く腰掛けて肩ほどの水色の髪の毛にブラシを通す。最後に、デスクの上にあったネームプレートを胸ポケットに差し込み、彼女は部屋を出た。
彼女、名前を『リカード・ヒューストン』という。