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Story - 3rd:Nadeshiko is the Magic Country Queen [33]

第3章 魔法国の撫子様 [33]

 悔しかった。
 自分がちやほやされていた事実をつきつけられた。
『撫子』
 自分を一人の者として見てくれる人などいなかった。いつしか心が病んでいった。それも仕方が無いと思った。人生をビジネスにする。それが彼女にとって楽な方法だった。
『撫子』
 それでも。どうしてこの身体はこんなに感情的になったのか。
『……撫子』
 冷たくて、けれどもとてもあたたかい声。 自分が子供っぽいことは認めてやる。 でもこれは、神様がくれたチャンスだ。神様なんて撫子は信じていなかったが、それが誰かの計画によるなら、それこそそこら辺の雑草にでも感謝したい。 外界に出る。そして、自分の目的を果たす。自分の、望みを。


「ねえ、アイリ。今回はさすがに同じ方法は使えない?」
「さすがにな。あたしも機械には知り合いはいないや」
 試作でつくられた門番マシーン。それがそこにいる。こういうものには監視用のカメラだったり非常通話機能があったりするはずなのだが、一向に見あたらない。まさに試作品。試作品を大事な門につかうなよという感じもしなくもない。
 よくよく見ると口のところにカードを差し込める隙間があった。 まあつまり入室にはそういうものが必要であるわけで、感情の無い相手には交渉すら出来ない。 ただ無情にも、時間だけが過ぎていく。カナをはじめ皆疲れきっていた。
「何をしているの?」
 声がしたのはそんなときであった。 艶やかな黒髪を持つ、白い布をまとった女性が門の向こうに現れ、こちらに向かって歩いてくる。
「撫子様!」
 カイが叫ぶ。

 門が開いた。 小さな少年と、勝ち気そうな女性。それから無気力そうな青年と、魔術を学んでいる様子の少女。そして、一人だけきょとんとしている金髪の娘。
『彼女だ』
 撫子の本能が告げた。
 カナは、カイの言葉に惹かれるままに目線をあげた。なんか偉そうな人。抱いたのはそんなものだった。そしてどうして自分がここに来たのかを考える。そうして、ひとつの結論が導きだされた。
「探してました」
 容貌も思考回路も違う二人の、たったひとつの言葉だけが同じであった。


[第3章 完]

 

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