「きゃ」
「ねえ、カイ。魔術が使えるんでしょう?ワープの術とか使えないかな?」
「落ち着いてカナ。あのね、ワープの術っていうのは」
「無理無理」
言葉を遮ったのはアイリだ。
「ワープの術は難しいとされる移動系の、しかも高等魔法だ。そこの見習いレベルなお嬢ちゃんに唱えられるわけがないよ」
その内容はカイが言おうとしていることと同じであった。だがその言い方にカチンとしたのだろう。先程の件もある。
「なんですかその言い方!学校で理論は学んだし、唱え方もちゃんと習ったわよ」
「なら、成功したことあんの?カ・イ・ちゃん」
「教室間の移動くらいは成績優秀でしたよ!私はその後、符を使うコースに行ったからそんなに実践していないけど、唱えられないなんて決めつけるのは失礼です!」
符というのは、様々な効力を書いた特殊な紙のことである。通常の術と異なり、詠唱無しで発動できたり、複合術を行うのに向いている。しかし、基本的に自然現象の力を利用するため、利便性に優れているというわけではない。たとえば、火をおこして料理をしたりすることはできるし、それに風を同時に発生させて火力を強めることも容易であるが、壊れた窓を修復したりするのには向いていない。そういうものである。
「自分の実力を分かってる人ほど他人に言われると怒るんだよねえ。素直にやめておいたら?お嬢ちゃんにはむいてないよ」
「なんなんですか、人をからかってるんですか!?」
「からかってる、って言ったら?」
唇の端がにやりと上がった。
「なっ……」
結局カイは再びアイリのペースに巻き込まれてしまった。そうとも知らず、怒りは膨張し続けるばかりである。
彼女自身もそれはちょっと無理、というつもりだったのに、こう喧嘩を売られては仕方が無かった。