当たり前のこと。
当たり前。
当たり前のことなのに、それが出来ないし、それを求めようとするのはいけないのかなぁ。
偶然でも。
ちらりと横を見た。カナの視線の先にはリョウがいる。
食事も終わりかけたとき、アキラがやってきた。
「頼むぞ、ハーヴェル」
朝の挨拶っぽいギャグを一通り言ったところで彼はリョウに向かって言った。
ハーヴェルとは、リョウの家名か何からしい。それに対してリョウが小さく頷いた。
「頼むって?」
チャンスと言わんばかりに、すぐさまカナがアキラに聞いた。リョウが何も答えてくれないなら答えてくれそうな方に聞くまでだ。
「彼には、私の……」
「息子を探す事を引き受けた。前金も貰った」
だが、明確な返事はリョウ自身にもたらされた。わざわざアキラの言葉を遮って、だ。
ポケットをまさぐっており、そこから見えるのは紙の束。決して多くはないが、少ないわけでもない枚数の少し汚れた紙が覗いている。つまるところそれは紙幣だろう。
「ほほーう」
アイリがもらした呟きからは、よくやったなぁコイツ、という感情がにじみ出ていた。
「というわけだから、俺はここでお別れってことで」
「ゆるさないっ!」
突然、カナがばん、と机を叩いた。
その勢いと発言に辺りが一瞬静まり返る。
「許さないんだから。あたしもやるのよ、息子探し。いいわね、アイリ!」
「あ、あぁ……?」
その勢いにそこにいた全員が圧倒された。アイリも突然自分に投げかけられたセリフにきょとんとし、とりあえず反射的にうなずく。
「四人、まだしばらく、一緒だね」
カナはにっこり笑って、既に終了しかけていたはずの朝食を再び食べ始めた。いつもの勢いを取り戻していた。さっきまでのもやもやは無かった。
ああ、そうだ。あたしは一人になりたくなかったんだ。
もう、寂しい思いはしたくないんだ。剣の姿が視界に入った。
一人になるのは嫌なんだ。
[第2章 完]